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小林秀雄の言葉 ( その29 )  [小林秀雄]

 ただ鑑賞しているという事が何となく頼りなく不安になって来て、 何か確とした意見が欲しくなる、 そういう時に人は一番注意しなければならない、 ある意見を定めて鑑賞している人で、 自分の意見にごまかされていない人は実に稀です。 生じっか意見がある為に広くものを味う心が衰弱して了うのです。 意見に準じて凡てを鑑賞しようとして知らず知らずのうちに、 自分の意見にあったものしか鑑賞出来なくなって来るのです。 いろいろなものが有りのままに見えないで、 自分の意見の形で這入って来る様になります。 こうなるともう鑑賞とは言えません、 ただ自分の狭い心の姿を豊富なな対象のなかに探し廻っているだけで、 而も当人は立派に鑑賞していると思い込んでいるというだらしのない事になって了います。
   「 文学鑑賞の精神と方法 」 について 5 - 二四三 小林秀雄 (人生の鍛錬 P.43)
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